
戦後インフレの為替相場をいまだに引きずっていることにはこんな心理的な問題もあります。
戦前から活躍していた歌手の話などをうかがうと、歌手が舞台で歌うときの実演料というのは、レコードの印税と比べるとまことに微々たるものだったそうです。大歌手の東海林太郎さんでさえ舞台で歌うときはせいぜい五円くらいなもので、一方、司会者のほうは十円取っていた、というのですから驚きます。現在とはその比重が逆転しているのです。もっとも、当時は、現在とは違って実演というのはもっぱらレコードを売るためのキャンペーンだったそうですから、仕方のない面はあります。歌謡ショーが盛んになったのは戦後のことで、当然、出演料もだいぶん変わってきたわけです――。
このような話を人に伝えるとき、そのたびにもどかしく思うのは、当時の五円がいったい現在のいくらに相当するのか、といつも頭のなかで計算し直さなければならない不便さのことです。貨幣価値のことが邪魔をして、今の人には話の真意が通じないのではないか、と考えてしまうのです。
戦前戦後を生きて来た人の実感なのでしょうね。
ではまた、来週金曜日に。
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