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2010年04月30日

使わなかった十万円 3

「三波春夫でございます」より

 家内はいったんお借りした十万円を、よほどのことのない限り手をつけてはならないお金だと思って、貯金のかたちにして、使うことはありませんでした。


 派手な金銭の出入りが常の芸能界にあっても、一つの家庭の台所を預かる女として、毎日の倹約に努め余裕のある切り盛りをしなければならぬと覚悟している家内としては、自分に相談なく十万円を借りて来た夫の心と、情けに厚い加藤社長の御恩に応えなければならぬと決心していたようでした。お借りしたのに一円の利子もつけずにお返し申し上げた借金を神棚に上げて歓びを表わして下さったお姿は私どもの目の奥から一生消える事はありません。
 著名な実業家にとって、その程度のお金の出入りが些細なものであったことに相違ありませんが、そのお金が十分に「生かされて」返ってきたことが、社長にとっても大きな喜びであったのでしょうか。
 社長は生前、数多の団体の長を引き受けて尽されたすばらしいお方でした。
 親以上のお方と申すべきでしょう。

 あらためて“神棚にあげて歓んでくださった加藤氏”を考えますと、あたたかいお方だったのだと感じ入ります。
 母のことですが、三波は生前、講演や取材の折に、『悪い女房を貰うと一生の不作と申しますが、お陰様で我が家は大豊作でした』と笑顔で語っておりました。妻には生涯、感謝感謝の三波春夫でした。
 ではまた、来週金曜日に。