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2009年10月23日

文若さん、ヨシタ ヨシタ 2

三波春夫著 「三波春夫でございます」より

 一座を率いて、故郷の新潟県を訪れたときのことです。浪曲を一席語り終えて、ここでもすっかり恒例になっていた歌謡ショーに移りました。


 アーリランアーリランからトラジトラジ……と歌い終えて、ここでも「もひとつ、もひとつ」のアンコールをいただいたのですが、その「もひとつ」に交じって老婦人が大声で、
「南篠さんヨォシタ、ヨォシタ!!」
 その声に、三味線を弾いていた家内が、さっと止めてしまいました。
 驚いて、「どうしたの」と聞くと、「あなた、お客様がヨシタ、ヨシタといっているんだから、もう止めましょうよ」と言うのです。私は思わず大笑いをしてしまいました。実は新潟で「ヨォシタ、ヨォシタ」とは、「ようやった、ようやった」という意味なのです。
 私は子供の時から褒められると「ようした、ようした」で気持ちを良くしていたわけですが、家内にしては初めての事でもあり特に屏風の陰で曲師を務め私よりも客席の気配には神経をとがらしていたものですから「南篠さん止した、止した」と、聞こえたのです。所変われば訛りが変わる―――でそれ以来家内は、何かあると、ようした、ようしたを連発して、父や母を笑わせていました。訛りは”くにの手形”とはよくいったものですね。

 曲師は、舞台中央に居る演者の方を向いて座って三味線を弾いています。曲師と客席の間には屏風が立てられていて、姿は隠れています。その屏風の陰から、演者の口演がお客様に上々にウケているか、もうひとつなのか、を察知し、例えば口演のノリが悪いようであればテンポアップを示唆する含みのある三味線の合いの手を入れて、演者のナビゲートをするのです。曲師の感性が鋭ければ、演者はたいへん助かります。芝居は、上手い役者とやらせてもらうことで藝が伸びるといいますが、上手い曲師もダイレクトに演者に影響を与えたようです。
 ではまた、来週金曜日に。