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2008年06月26日

芸の仇敵同士 11

三波春夫著 「すべてを我が師として」より

 私は、いつのまにか、握(にぎ)りかためた拳(こぶし)に、さらにカを入れていました。しかし、ハッと思い直してみれば、妻のいうことに、一つの間違(まちが)いもないのです。


「あなたは、ちょっとくらい楽しんだっていいだろうと心の中で思っている。その油断(ゆだん)を喜んでいる人だっているんですよ。このシャツは、私の給料(きゅうりょう)であなたのために買ってきたんですが、あなたなんかに着せるのはもったいないわ、こうします」
 そういうと、妻は、昼間街(まち)で買ってきた、まっ白なチヂミのシャツの上下を、ズタズタに引きさいてしまいました。

<八島>
 夫は舞台に立つ仕事なのだから上等な下着を着せようと、自分の稼ぎから支払って買ってきた、というのは母らしいことです。藝を見せる舞台人として土台からちゃんとしてなければいけない。衣装を重んじるのも当然、見えなくても下着は常にきれいに清潔に、と。母はずっとそうでした。そのポリシーのお陰で、三波はずっと、ちょっとでも汗をかくたび、一日に何回も下着を取替えることが習慣でした。