
宴も終って、私たち二人は、万才!万才!の声に送られて東京駅に向いました。そして、湯河原を目ざして、新婚旅行に旅立ちました。
汽車に乗りこむと、ホッと安心(あんしん)した婿どのは、あたたかな車内のせいか酔(よ)いもまわって、間もなくスヤスヤと眠ってしまいました。
実は、私はそのときはじめて、自分のお金で一等車に乗ったのです。ただ一夜の新婚(しんこん)旅行とはいえ、私たちは、一生の思い出の日として心の日記に記しておきたいと、三日前にぜんぶ手配(てはい)しておきました。
<八島>
私が物心ついてから見続けた母は、父と手をつなぐところなどみたこともない、夫婦ベタベタのべの字もない母でした。実に夫のために、24時間を使う人でしたが。でも、その母がある日、箪笥の前で和服の手入れをしているときに「これは、新婚旅行で湯河原に着てった羽織なのよ」と、薄いピンク色に小さな花模様が染められた羽織を見せてくれました。若い時に着た和服は年を重ねると派手になるから、と、人に差し上げていた母が、その羽織だけはとっておいたのでした。
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