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2007年10月23日

飢えと寒さの中で 11

三波春夫著 「すべてを我が師として」より

 人間、貧すれば鈍すといわれますが、残念ながら収容所内では、泥棒があとを絶ちませんでした。
 あるとき、私は外の作業に出て、ソ連人から黒パンを一本もらったので、その三分の二を班の仲間に分けてやり、残りを雑嚢(ざつのう)に入れて枕にして寝ました。


 ところが、朝起きてみると、この枕はすっかりペチャンコになっているのです。隣りのやつがどうも変な顔をしているので、
「おい、お前、この中のパンを食ったな」
 と、きめつけると、その男は目をパチパチさせて、否定も肯定もしません。やっぱりこいつだったのかと思いましたが、それ以上怒る気にもなりません。
 夕食のとき、分け前をもらったくせに、それでもまだ欲しくて、私が眠っているその枕を、私の寝息(ねいき)をうかがいながら、こわごわひとつかみずつ千切っては食べていた姿を想像すると、怒りよりもおかしさがこみあげて来るのでした。

<八島>
6月14日のブログにも、自分の時計を失敬されているのを気づかず、紛失したと思い、連帯責任で仲間にも迷惑をかけてしまった話がありましたが、ここでもパンを食べられてしまったことが書かれています。三波が話していたのには、夜中に“ちぎっては食べ、ちぎっては食べ…”をしていた人とは、頭のてっぺんを縦に向かい合って寝ていた形だったそうです。