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2007年06月20日

生と死の彷徨 その8

三波春夫著 「すべてを我が師として」より

 好きな浪曲が、思う存分やれるようになったのは、富綿(フウキン)地区へ移って間もなく、部隊長の前で口演するようになってからです。
 その日は、各中隊長、小隊長が集まる"将校会食"のときで、私は"公用"の腕章を巻いて今日だけは大いに胸を張って出かけました。『義士外伝・俵星玄蕃』を語り終るや、盛んな拍手。


 この時、部隊長は、私の浪曲が終ると、「こんどは俺の番じゃぞ」と、小皿叩いて「ギッチョンチョン、ギッチョンチョン」とやるのです。が、なかなかの芸達者で『安来節』なども踊り、それがまた、たいへん上手なのに感心しました。
 私は、一昨年の終戦記念日に、歌舞伎座の舞台で『チャンチキおけさ』を歌っているうちに、ふと"ギッチョンチョン"の石丸部隊長を思い出しましたが、やはり戦死されたとか……。

<八島>
 「ギッチョンチョン」とは、明治時代の流行歌の一節です。ステージで歌っているときに部隊長のことを思い出すなど、どういうことなのかと思われることでしょうけれど、三波と他の歌手の方が雑談の中で“歌うことに集中しながらも、ゆーっくりとした悠久な時の流れを感じたり、ふと何かを思い出したり思いついたりすることもあるね”と話していたことがありました。