
夜汽車は、ひっそりと生れ故郷の駅を離れました。
もちろん、誰ひとり見送りに来てくれる人もなく、淋しい旅立ちでした。
三等車のかたい席に、むかいあって腰かけた母は、まるで能面のように表情を変えず、黙りこくっていました。私たち姉弟も黙っていました。母は、ふと、渇いた声で「これを食べないか」と、菓子を出してくれました。姉と二人で食べている間にも、母は決して、一つも口にせぬようでした。「母ちゃんも食べる?」姉の言葉にも軽く頭をふるだけで静かに眸(ひとみ)を閉じていました。自分だってきっとその時はお腹も空いていたはずなのに……。
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